「やめたいのにやめられない」――それは意志の問題ではないかもしれません
「ゲームを1時間だけのつもりが、気づいたら朝になっていた」「スマートフォンを手放すと落ち着かない、イライラする」――こうした経験は、多くの方にとって身に覚えがあるかもしれません。しかし、それが日常的に繰り返され、仕事や学業、家族との関係に深刻な支障が生じているのであれば、「ゲーム障害」や「インターネット依存症」という医学的な状態を考える必要があります。
よくある誤解のひとつが、「依存症になるのは自制心が弱いからだ」という考え方です。しかし現代の脳科学・精神医学の研究は、依存症がアルコールや薬物と同様に、脳の報酬系(ドーパミン系)の機能変化を伴う疾患であることを明らかにしています。道塚は診察の場で、「なぜやめられないのか自分でも不思議」とおっしゃる患者さんに何人もお会いしてきました。そのたびに、「それはあなたの性格の問題ではなく、脳の状態が影響しています」とお伝えしています。
本記事では、ゲーム障害・インターネット依存症の診断基準・症状・治療法を順を追って解説します。「もしかして自分や家族のことかも」と感じながら読んでいただければ幸いです。
ゲーム障害・インターネット依存症とは何か――定義と歴史
「ゲーム障害(Gaming Disorder)」は、2022年に発効したWHO(世界保健機関)の国際疾病分類第11版(ICD-11)において、正式な疾患として収載されました。これは、ゲームに関連した行動が、他の生活上の重要な活動よりも優先されるほどコントロールを失った状態を指します。
一方、「インターネット依存症(Internet Use Disorder)」はICD-11の研究付録に収録されており、現時点ではゲーム障害ほど診断基準が確立されていませんが、臨床現場では重要な問題として扱われています。SNS・動画視聴・オンラインギャンブル・ネットショッピングなど、さまざまなオンライン活動への過度な依存を包括的に捉える概念です。
米国精神医学会のDSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版改訂版)でも、「インターネットゲーミング障害(Internet Gaming Disorder)」が「さらなる研究が必要な状態」として掲載されており、世界的に研究と臨床対応が急速に進んでいます。
ゲーム障害はWHOのICD-11に正式収載された医学的疾患です。「単なる趣味の行き過ぎ」ではなく、脳の機能変化を伴う依存症の一型として国際的に認められています。
診断基準を詳しく知る――ICD-11のゲーム障害3要件
ICD-11におけるゲーム障害の診断には、以下の3つの中核的な特徴が必要とされています。これらが少なくとも12か月以上(症状が重大な場合は期間短縮あり)続いていることが条件です。
- コントロール障害:ゲームを始めるタイミング、頻度、時間、終了するタイミングなどをうまくコントロールできない状態。「1時間だけ」と決めても守れない、やめようとしてもやめられないといった経験が該当します。
- 優先度の増大:日常生活の他の活動(仕事・学業・食事・睡眠・人間関係)よりもゲームを優先してしまう。ゲームのことが頭から離れず、他のことへの興味や関心が薄れていく状態です。
- 問題が生じても継続:ゲームによって睡眠不足・体調悪化・人間関係のトラブル・学業成績の低下などの悪影響が生じているにもかかわらず、ゲームをやめられない、あるいは使用量が増え続けている状態。
これらに加えて、臨床現場では以下のような関連症状も確認します。
- 離脱症状:ゲームや端末の使用をやめると、強いイライラ・不安・抑うつ気分が現れる。
- 耐性:同じ満足感を得るために、プレイ時間をどんどん増やさなければならなくなる。
- 虚偽・隠蔽:使用時間や行動を家族・医療者などに嘘をついて隠す。
- 現実逃避:不安・抑うつ・罪悪感などの不快な感情から逃れるためにゲームやネットを使う。
「週末だけ長時間ゲームをする」「好きなゲームに夢中になる時期がある」といった状態は、必ずしもゲーム障害ではありません。重要なのは、コントロールの喪失・日常生活への支障・それでも継続するという3点が揃っているかどうかです。
なぜ依存してしまうのか――脳の報酬系と心理的背景
ゲームやインターネットがなぜこれほど人を引きつけるのか、その背景には脳の報酬系、特にドーパミン系神経回路の働きがあります。ゲームをクリアしたとき、「いいね」が付いたとき、欲しいキャラクターが手に入ったとき――こうした瞬間に脳内でドーパミンが放出され、「もっとやりたい」という動機づけが生まれます。
現代のゲームやSNSは、まさにこの報酬系を最大限に刺激するよう精巧に設計されています。ランダムな報酬(いつ良いことが起きるかわからない仕組み)・段階的なレベルアップ・他者との競争・コミュニティへの所属感など、依存を促す要素が意図的に組み込まれています。
心理的背景としては、以下の要因が依存リスクを高めることが知られています。
- 現実の生きづらさ:学校でのいじめ・職場でのストレス・家族関係の問題など、現実で感じる苦しさからの逃避としてゲームやネットを多用するケースが多く見られます。
- 低い自己評価・孤独感:現実では認められない、友人がいないという感覚がある場合、オンラインの世界で得られる達成感や承認が過度に重要になりやすいです。
- 発達障害・ADHD・うつ病との関連:ADHD(注意欠如・多動症)のある方は衝動制御が難しく依存しやすい傾向があります。また、うつ病や不安障害の症状から逃れるためにゲームやネットを使うことで依存が進むケースも少なくありません。
依存は「意志が弱い」のではなく、脳の変化と心理的脆弱性が組み合わさった結果です。自分や家族を責めるのではなく、医療的なサポートを活用することが回復への近道です。
どんな治療が行われるか――精神医療における標準的なアプローチ
ゲーム障害・インターネット依存症の治療は、単一の方法ではなく複数のアプローチを組み合わせることが基本です。現時点ではアルコール依存症のような特効薬があるわけではなく、心理療法・薬物療法・環境調整・家族支援を組み合わせながら進めます。
認知行動療法(CBT)
最もエビデンスが蓄積されている治療法です。「ゲームをしないと不安でたまらない」「現実に良いことが何もない」といった思考パターン・認知のゆがみを丁寧に検討し、現実の生活に適応できる考え方・行動パターンへと変えていきます。個人療法のほか、グループ形式で行われることもあります。
動機づけ面接(MI)
「変わりたい気持ちはあるが、やめたくない気持ちも強い」という両価性(アンビバレンス)を丁寧に扱い、患者さん自身の変化への動機を引き出す面接技法です。強制や説得ではなく、患者さんのペースを大切にします。
薬物療法
ゲーム障害・インターネット依存症に対して日本で承認された特定の薬はありませんが、背景にある精神疾患(うつ病・ADHD・不安障害・ASDなど)への薬物療法が有効なことがあります。抑うつや不安が和らぐことでゲームへの依存が軽減するケースもあります。
環境調整と行動計画
端末の使用時間を管理するアプリの導入・ルーターのタイマー設定・ゲーム機や端末を別の部屋に置くなど、物理的・環境的な制限を本人・家族と一緒に設計します。「ゲームをやめる」ことだけでなく、ゲームの代わりになる活動(運動・趣味・社会的活動)を増やすことも重要です。
| 治療法 |
主な対象・目的 |
エビデンスレベル |
| 認知行動療法(CBT) |
思考・行動パターンの修正 |
高い(ゲーム障害では最も推奨) |
| 動機づけ面接(MI) |
変化への動機を引き出す |
中程度(他の依存症で確立) |
| 薬物療法 |
背景疾患(うつ・ADHD等)の治療 |
背景疾患への効果は高い |
| 環境調整・行動計画 |
使用時間の物理的制限 |
中程度(補助的に有用) |
| 家族療法・家族心理教育 |
家族の対応力向上・関係修復 |
中程度(特に未成年に有用) |
家族にできること――正しいサポートの形
ゲーム障害・インターネット依存症に悩む本人を支える家族の役割は非常に大きいのですが、同時に「どう関わればよいのかわからない」という声も多く聞かれます。間違った関わり方が症状を悪化させることもあるため、以下のポイントを参考にしてください。
- 責めたり怒鳴ったりしない:「いい加減にしなさい」「なんでやめられないの」という言葉は、本人の罪悪感や孤立感を高め、ゲームへの逃避をかえって強化することがあります。感情的な対立を避けることが大切です。
- 問題を明確に伝える:責めるのではなく、「昨日も学校に行けなかったこと、心配している」「一緒に解決策を考えたい」という形で、具体的な事実と自分の気持ちを伝えましょう。
- ゲーム・ネット以外の肯定体験を増やす:一緒に食事をする・散歩に誘う・趣味のことを聞くなど、現実の生活に楽しみや安心感を作ることが、依存からの回復を後押しします。
- 家族自身が専門家に相談する:本人が受診を拒否している場合でも、家族だけで精神科・心療内科に相談することは有効です。家族への心理教育や対応方針のアドバイスを受けることで、状況が改善するケースがあります。
端末や通信を突然・強制的に取り上げることは、激しい反発・暴力・家出などのリスクを高めることがあります。環境調整は、できる限り本人と話し合いながら段階的に行うことが望ましいです。どう進めればよいか迷ったときは、専門家にご相談ください。
また、家族自身が疲弊・孤立しないことも重要です。長期にわたる介護・支援は家族にも大きなストレスをもたらします。一人で抱え込まず、支援機関・精神科・自助グループなどを積極的に活用してください。
北海道でのオンライン診療という選択肢
「精神科・心療内科を受診したいが、近くにクリニックがない」「予約が取れない」「受診するところを知り合いに見られたくない」――北海道では広大な地域に医療機関が分散しており、特に精神科・心療内科へのアクセスは都市部と地方で大きな差があります。また、ゲーム障害・インターネット依存症は本人がなかなか外出しにくい状態であることも多く、対面受診のハードルが高くなりがちです。
北海道オンラインクリニック(医療法人鳳應会)では、そうした方々のために北海道全域を対象としたオンライン専門の心療内科・精神科診療を提供しています。精神科専門医・精神保健指定医が全診察を担当しており、ゲーム障害・インターネット依存症の評価から治療方針の立案まで、適切に対応いたします。
- アプリ不要・保険証不要:専用アプリのインストールや保険証の提示なしでご利用いただけます(原則自費診療)。
- 北海道全域対応:札幌・函館・旭川・釧路・帯広・稚内・離島など、道内どこからでもご相談いただけます。
- 精神科専門医が担当:一般内科医や非専門医ではなく、精神科専門医・精神保健指定医が診察します。依存症・発達障害・うつ病などの背景疾患も含めて総合的に評価します。
- ご本人だけでなく家族の相談も可能:「本人が受診を嫌がっている。家族としてどう対応すれば?」というご相談も受け付けています。
オンライン診療では、診察室に行かなくてもスマートフォンやパソコンから精神科専門医に相談することができます。「受診するほどではないかも」と思っていても、まず話を聞いてもらうだけで気持ちが楽になることがあります。一歩踏み出すことを、ためらわないでください。
ご予約は当院公式サイトの予約フォームからお申し込みいただけます。初回のご相談から、丁寧に対応いたします。
まとめ
ゲーム障害・インターネット依存症は、ICD-11に収載された医学的な疾患であり、「意志が弱い」という問題ではなく、脳の報酬系の変化と心理的背景が複合して生じるものです。診断には「コントロールの喪失」「他の活動への優先」「問題が生じても継続」という3つの要件があり、認知行動療法・動機づけ面接・背景疾患への薬物療法・環境調整などを組み合わせた治療が有効です。ご本人だけでなく、支える家族も専門家のサポートを受けることが回復の鍵となります。北海道オンラインクリニックでは、精神科専門医による北海道全域対応のオンライン診療を行っておりますので、「もしかして…」と感じた方はどうぞお気軽にご相談ください。